近鉄奈良駅から東、登大路を進むと三笠焼きのモデルとなった若草山がふんわりと包み込むように迎えてくれます。
標高342メートル、菅笠を三つ重ねたように見えることから、かつては三笠山と呼ばれていました。
奈良銘菓「三笠焼き」、をれも超特大が誕生したのはこの山の形状だけでしょうか。古都にふさわしい佇(たたず)まいの「湖月」三代目社長・橋本弘二さんに「まぁー」と声が出るような興味深いお話を伺いました。

河東碧梧桐(正岡子規門下生)の弟子として俳句をたしなんでおられた初代の橋本半一郎さん。
師の揮毫(きごう)による店の看板が当時を伝えています。その半一郎さんが茶店(喫茶店風)開いたのが明治四十二年。かたわらで三笠焼きを売っていました。
そうして昭和十年ごろ、毎日三笠山を眺めていた半一郎さんは三笠焼きを大きくしてみようと、一個で六人分もある特大三笠焼きを考案しました。大きさについては、お好み焼きからヒントを得たといいます。お好み焼きというのも関西の日常を感じました。 以来直径十六センチの大きさはもちろん、味も何ら変わることなく七十年余の歴史。小麦粉、卵、砂糖だけで作る生地は豊かな香りのふんわりしたカステラです。

こし餡(あん)、粒餡との調和が人気の秘密かもしれません。関東では「どら焼き」(武蔵坊弁慶が銅鐸=どうたく=の上で焼いたとされる説もある)と言われこし餡が、関西は「三笠焼き」と称し粒餡入りが好まれるようです。

同店では毎年四月十九日林神社(奈良市)で行われる饅頭(まんじゅう)祭りに餡が一・九キロ入った直径三十二センチもある「みかさ焼き」を奉納しています。全国の和菓子メーカーが自慢の菓子を供えて商売繁盛を祈願する祭りです。興味のあるかたは見学されるとよいと思います。

さて材料が身近にあるものばかりですので家庭で挑戦してみました。
「湖月」では厚さ十二ミリの銅板で焼きますが、家庭ではホットプレートで。ポイントは火加減と生地を固めにーです。しっとり軟らかい状態が食べ時です。

三笠焼きは、ふる里(東向通り)、萬勝堂(東向中町)、千寿庵吉宗(押上町)などで各店餡にも工夫をこらし、直径十センチから二十一センチ前後、百五十円から千四百円くらいで販売されています。
また鶴屋徳満(下御門町)では天皇の成人式に献上したことから「献上みかさ(大、直径十四センチ、六百八十三円)」と名づけています。 「きどらない大らかさが奈良らしさ」とガイドッブックにありました。
若草山のように愛敬があり、疲れた心を和ませてくれる三笠焼き。涼風と月が輝く季節です。家族でゆっくり懐かしい縁日のような甘い香りと味を楽しんでみてください。



奈良の食文化研究会:山本 正子・長谷 信子



三笠焼き

<材料>(直径十六センチ 1個分)
・小麦粉(薄力粉)100グラム
・卵100グラム(2個ぐらい)
・砂糖(上白糖)90グラム
・ベーキングパウダー小さじ1/2から2/3
・サラダ油適宜
・つぶ餡またはこし餡200グラム(市販の完成品を使用)
・直径16センチ厚さ1.2センチくらいの枠(アルミホイルで作る)

<作り方>
@粉とベーキングパウダーを合わせてふるっておく
A卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に砂糖を加えてクリーム状になるまで混ぜる。さらにぼってりとなるまで泡立てる
BAに@の粉を2回に分けて加え、木じゃくしで練らないように軽く混ぜ合わせる
Cホットプレートをホットケーキを焼く温度に設定し、油をひいてアルミ枠をのせ、その中にBの生地半量を流し入れ、生地のまわりが固まれば枠をはずして蓋をする
D表面がプツプツと泡だち、きれいな焼き色がついたらひっくり返しCと同様に蓋をする。この時、厚みがあるので表面の焼き色を見ながら十分に火を通す(表5分、裏4分程度)
Eもう1枚同様に焼く
F焼き上がった生地は別皿にとり、乾燥しないように蓋をしておく
G2枚の生地の間に餡をはさみふっくらとした形に仕上げる。